ラーメン博士、かく戦えり

ルビコンの決断」(テレビ東京系)今週は「“食の安全”をどう守ったのか?〜インスタントラーメン開発者の決断〜」。
主人公は日清食品の創業者にしてインスタントラーメンの発明者・安藤百福さん。
・食は命にかかわるもの
21世紀に入ってからここ数年、産地偽装やら賞味期限改竄やら、汚染米の販売などの不祥事が相次いでいる。
しかし。昭和の時代に「食の安全を守る」ために全力で頑張った男が居た。それが安藤百福、その人だった。
食品会社のモラルが問われる時代に、その安藤さんの物語を再現ドラマ化。
・あの人も同年代
昭和33年(1958年)に発売された「チキンラーメン」―お湯をかけて2分(現在は3分)待つだけで食べられる
“魔法のラーメン”として、発売されるとたちまち大ヒットした。
番組ゲストの石破茂農林水産大臣は、チキンラーメン誕生の前年・昭和32年(1957年)生まれ。インスタントラーメンは
「人生の歴史とそのまま重なる」という。
・「てるてる家族」で語られなかった戦い
何年か後。「チキンラーメン」のヒットを受けて、様々な企業がインスタントラーメン業界に参入。
その中には、原材料の質も味も悪い粗悪品を作る会社もあった。
また、「チキンラーメン」の空き袋に粗悪品を入れた偽造品が出回るという事態も発生した。
・新聞がメディアの王者だった時代
そして世の中には「インスタントラーメンは体に悪い」という風評が広まっていった。
「このままではインスタントラーメン業界そのものがダメになってしまう」
実際、日清食品は味付油揚めんの製法特許を取得。それを侵害して類似品を作る会社を提訴し、訴訟を何件も抱えていた。
それを新聞では、まるで日清食品の方が悪いように書いていた。

今でこそ「特許」や「商標」などの知的所有権は、企業の大切な財産として守られるようになったが、
当時は特許を楯に権利を主張する方が浅ましい、といった論調まであった。

これだからマスゴミは・・・。昔からそうだったんですね。
・方針転換
訴訟は泥沼化、何よりも消費者の信用が落ちてしまう。食糧庁からの要請もあり、安藤さんは思いきった決断をする。
「即席食品の業界団体を設立し、製法特許をそこに預けます」団体に加盟して特許の使用料を支払えば、日清食品
同じような即席めんを作っても構わない。
「野中の一本杉としてそびえ続けるのもいいだろう。が、周りに杉の木を植えて豊かな森にするほうが実りは大きい」。
安藤さんの説得の末、56社が加盟して「社団法人・日本ラーメン工業協会」が発足。各社が品質の向上につとめた結果、
粗悪品を作る会社は淘汰されていった。
・グーグルと即席麺
その後、インスタントラーメンは日本を飛び出して世界各国に広がった。特許が自由に使えるようになったことで
世界の人々のお腹を満たし、宇宙食にまで採用される食品となったのである。
番組ではこうした「オープン・イノベーション(特許を模倣防止ではなく市場拡大のために使うなど、
会社の枠を超えて新しい価値を創造する)」の類似例として、
松下電器産業(現パナソニック)の創業者・松下幸之助氏がラジオの技術を発明した技術者から
私財をはたいて特許を買い取り、「ナショナルラジオ」を発売して普及させた話や、
Google」も開発したソフトの使用を無償で認めている・・・という話を紹介している。
・消費と賞味
番組では「賞味期限と消費期限の違い」についても説明。

  • 消費期限:「その期限を過ぎたら食べない方が良い」コンビニ弁当や調理パン、生めんなどにつけられる。
  • 賞味期限:「おいしく食べられる期限」比較的日持ちはするが、期限を過ぎたら味の保証はされない。牛乳、即席めん、缶詰などにつけられる。

そうです。即席めんに賞味期限がついている理由―そこにも、安藤さんの決断の功績がありました。
・ある意味「生もの」
昭和39年(1964年)夏。ラーメン協会設立から2ヶ月後、新たな危機が日清食品を襲う。
夏場向けの商品「日清焼そば」を食べた人が、体調不良を訴えるという事件が発生。
「また中身をすりかえた偽物か?」否。確かに日清食品の製品だ。
製造・出荷の段階では何も問題は無い筈。安藤さんは全商品を直ちに回収、社員に原因調査を命じる。
そして判明した原因が「油の劣化」。
当時インスタントラーメンを販売していた店といえば、町の八百屋や雑貨屋など。「乾めんだから大丈夫だろう」と
直射日光の当たる店先に陳列されていたという。猛暑のさなか急速に油が酸化して、食中毒のもとになってしまったのだ。
・叩かれる運命
またしても「インスタントラーメンは体に悪い」という風評が世の中に広まった。
「どうしてあんなもの売るの。子供が口にするものなのよ。今すぐにでも、あんな悪いもの止めて頂きたいと思います」
というクレームの手紙が社長のもとに届いた、という場面があったが・・・
それは言いがかりなんじゃないのか?と邪推してみる。
例えば「子供がインスタントラーメンにハマって、自分の作る普通の食事を食べなくなった」ことで悩んでいる母親からの
八つ当たりだったりして。
・気にとめる人も無し
さらに原因を調べると・・・小売店仕入れた商品の段ボールを積み上げて、上の方にある新しい商品から陳列されて
古い商品がいつまでも残ってしまう、といった事が少なからずあることが判明。
製造年月日の古いものから売ってもらいたいが・・・当時は箱の中に製造年月日を書いた小さな紙切れがあるだけで、
どうもわかりづらい。
・当たり前のようで当たり前じゃない
そこで安藤さんは、もうひとつの決断をする。「袋のひとつひとつに、製造年月日を入れて欲しい」と工場に命じた。
昭和23年(1948年)施行の食品衛生法では「製造年月日表示」が義務付けられているのは乳製品やハム・ソーセージなど
「日持ちのしない食品」だけだった。インスタントラーメンは日持ちがする商品として義務付けから除外されていたが、
日清食品は敢えて製造年月日表示をすることにした。
そして小売店にも指導を徹底。「先に仕入れた商品を先に出す」これが基本。現在、スーパーの食品売り場の段ボールで
よく見かける先入れ先出しという言葉は、それを意味していたのだ。
・保存は意外と難しい
そういえば。最近になっても、「カップヌードル」のカップが発泡スチロールから紙製に変わって間もないころに
「防虫剤と一緒に保存していたら、防虫剤の成分が透過して“防虫剤の臭い”が移ってしまった」という事例がありましたな。
その時も日清食品は、迅速に対応していました。過去の教訓が生きてますね。
・なるべく長く頑張って
そして21世紀の今。何故、食の安全を揺るがす事件が多くなってしまったのか?
「消費の現場と生産の現場、これが遠くなっちゃってる」と石破農水大臣は指摘する。
農水省は「食品表示特別Gメン」を2008年に設置、食品の偽装や不正を監視している。
「商売の安全も消費者の安全も守る」のが仕事だ、と石破農水大臣。
・日々、感謝を
安藤百福さんは会長に就任、チキンラーメンを毎日食べ続けた。本人曰く「臨床実験だ」。
チキンラーメンを食べて「自分が長生きして証明する」。『インスタントラーメンは体に悪い』という誤解を
払拭するために。
そして安藤さんは2007年、96歳という長寿でこの世を去った。その訃報を伝えるニューヨークタイムスの記事の見出しは
「Mr.Noodleに感謝を」。インスタントラーメンが世界中で愛されていることを物語っていた。
番組の最後は、安藤さんの晩年のお言葉で締めくくられた。
「食ほど難しい、食ほど聖職である仕事はない。したがって人々の命、健康に害することは絶対にしてはならない」
食足りて、世は平らか。おいしいもので人を幸せにしたい、という気持ちが大切。
安藤さんが生きておられたら、相次ぐ食品偽装事件をどう思われるだろうか。
(関連:「カンブリア宮殿」2008年3月31日放送分日清食品安藤宏基社長ご出演)